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桐野夏生『東京島』…母親の方は、ひたすらバランスを大切にして、自分が傷付いたことを誤魔化していた。 [本 books]

「母親の方は、ひたすらバランスを大切にして、自分が傷付いたことを誤魔化していた。曰く、夫が出て行ったのは衝撃だけど、自分はライターの仕事ができるようになってよかった。やっちゃんが父親を失ったのは可哀相だけど、父親について考えるきっかけができたのはよかった。とにも角にも、感情の収支のバランスさえ保たれていればいいのだった。それは、ポジティブ・シンキングの一種ではあったが、開き直りとも取れることもあり、始終言われると、正直うざくはあった。でも、確かに便利な理論だった。自分の盗癖も、このバランスシートで考えれば、見事に解決するのだった。要は方法など何でもよくて、とりあえず納得して前に進めば、母親はそれでいいのだ。」

下記書籍、P251-252より


東京島 (新潮文庫)

東京島 (新潮文庫)

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04/24
  • メディア: 文庫



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